―〈グレゴリー〉はアウトドアのバッグブランドでありながら、いまではタウンユースにも普及していますよね。
中島:個人的に、独自の立ち位置にいると感じています。〈グレゴリー〉のラインナップを大きく分けると、本格的なアウトドアに対応する“テクニカル”と、街でカジュアルに使える“ライフスタイル”の2つに分類されていて。その両軸でプロダクトを展開していて、なおかつ高いレベルで支持されているブランドって、なかなかないと思うんです。
「グレゴリー」ブランドディレクターの中島健次郎さん。15年以上〈グレゴリー〉の商品企画開発に携わる。
―なぜ〈グレゴリー〉がファッションシーンと密接な関係になったと思いますか?
中島:〈グレゴリー〉は1986年頃日本正規輸入代理店が決まって、日本へ正式に上陸しました。そこから、ファッションとして受け入れられたのは諸説ありますが、90年代のアメカジブームをきっかけに「デイパック」が支持されたのが始まりと言われています。
―中島さんが〈グレゴリー〉を知ったのも、その時期ですか?
中島:そうですね。高校2年生で初めて「デイパック」を買いました。アメカジブームで、みんな“本物”を欲しがっていたんですよ。「デイパック」はしっかりとした作りで、メイドインU.S.A.。ほかのバッグと並んで売られていても、ただならぬオーラを放っていて。当時は機能や構造や素材を全然理解していなかったけど、単純にかっこよく見えましたね。
―それで〈グレゴリー〉に魅了されたと。
中島:見た目だけでなく、実際に使ってみたら快適で、ほかのバッグとの機能性の違いを感じましたね。あと、ファッションシーンに浸透したもうひとつの理由が、ロゴラベルの変化だと思います。時代ごとにデザインを変えていて、これがコレクター心に響いたんですよ。ヴィンテージデニムと同じで、こういうディテールの変化は男性にとってはたまらないじゃないですか。
“紫タグ”と“現行タグ”を比べると、ベースはそのままに容量は22Lから26Lにサイズアップ。ボトムの高さや、ロゴの位置も少し異なります。
―初代から現行までで7つのロゴラベルがあるんですね。
中島:ぼくが最初に手に入れたのは紫タグでした。当時はネットなんてなかった時代でしたけど、ロゴの話題をきっかけに仲間が増えて、情報を交換するようになったんですよ。“紫タグ”の前は“茶タグ”で、さらにその前は“プリントタグ”だったって。そうやって古いモデルも探し求めるようになりましたね。
デイパック ¥27,500
―ロゴが変化しながらも、誕生から現在まで、原型がほぼ変わらないところも「デイパック」が人気の理由です。
中島:「デイパック」の基本的な機能は、1stモデルで完成しているんですよ。日本に現存しているオリジナルは2つだけで、これは寸分違わず再現したレプリカです。
「デイパック」1stモデルのレプリカ。
―現行モデルに踏襲されている機能を教えてください。
中島:じゃあ、まずフロントから。中央の上下に付いているループは、トレッキングポールを装着するためのもの。現代のタウンユースとしてはデザインのアクセントになっていますね。ファスナーのレザープルも当初から採用されていました。
―レザープルは〈グレゴリー〉のアイコンですよね。
中島:もともとは登山しているとき、グローブをしたままでもグッと握りやすいように採用されたんですよ。ファスナーはYKKの10番。バッグで壊れやすいのはファスナーですが、これは太くて頑丈でめったに壊れにくい。「デイパック」の耐久性を支える大事な要素のひとつです。
それと、背負い心地を高めるディテールも、現行モデルは受け継いでいます。ボトムの形状を見てください。
―カーブしていますね。
中島:背中にフィットするようにボトムが三日月型になってるんです。ちなみに、ロールマットなどを外付けできる、ボトムのアタッチメントループも現行モデルに付いていますよ。
―さすがアウトドア由来のバッグ。機能的なディテールが豊富ですね。
中島:ほかにも変わっていないディテールや機能があるんです。ただ、1stモデルにはメインコンパートメント内に仕切りやポケットがないので、その点で現代のライフスタイルでは使いにくいかもしれません。
―逆に、現代的にアップデートされている部分もありますよね?
中島:1番大きくアップデートされたのは2014年。「デイパック」の生産背景が切り替わるタイミングで、ウエストベルトの収納ポケットをつけたことですね。ぼくは自称、世界一の「デイパック」ヘビーユーザーで、通勤も休日も、365日使っているんですけど、そんなぼくでもウエストベルトは持て余していて。アウトドアでは便利ですが、タウンユースで使っているひとは、限りなくゼロに近い機能だと思うんですよ。
―たしかに。
中島:古着屋さんでは切られたものが売っていたくらい。でも、使うひともいる。だから、収納ポケットを追加することで、使うときは出して、使わないときはしまっておけるようにしたんです。
―これはすごく気が利いたディテールですね。
中島:あと、メインコンパートメント内に収納がなくて小物がなかでごちゃごちゃになることもあって。そこでメッシュポケットとノートPCや書類を入れられるマルチスリーブも追加されました。
―ちなみに、「デイパック」はアメリカではどんな立ち位置なんですか?
中島:アメリカ人の考えとして、素材も技術も進化しているから、より機能的な製品のほうが人気で。「デイパック」は車で言ったらクラシックカーみたいなもの。もちろん好きなひとは好きだけど、アメリカの大衆には最新のプロダクトのほうが支持される傾向にあるんです。
―そうだったんですね。
中島:その進化に対する姿勢は、いまのロゴにも反映されています。“テクニカル”のモデルが最新の素材やデザインを採用し、どんどん進化していたこともあって、それに合わせて“テクニカル”が2015年に、“ライフスタイル”が2016年に、それぞれ現在のシャープなロゴに変更されました。
写真左が“ライフスタイル”、写真右が“テクニカル”のロゴ。
―よく見ると“ライフスタイル”と“テクニカル”のロゴは、微妙に違いますね。
中島:フォントの太さを変えて、“ライフスタイル”はロゴに奥行きを加えています。この陰影のあるデザイン、実は流線型の旧ロゴを重ねているんです。
―それでは、アメリカで日常使いされている〈グレゴリー〉はあるんですか?
中島:アメリカでは登山用パックなど、アクティビティで使える“テクニカル”が中心。でも、テクニカルの機能性を活かして、日常から週末の遊びにまで使えるモデルをつくろうと企画が始まり、2022年の秋に登場したのが「ルーヌ」です。
ルーヌ20 ¥24,200
―いまっぽいスタイリッシュなデザイン。機能も最新なんですか?
中島:“テクニカル”のデザイン、機能、素材を日常使いのバッグに落とし込んでいます。例えばバックパネル。“テクニカル”のフラッグシップモデル「バルトロ」と同じエアークッションを使っています。
―それはどんな特徴が?
中島:エアークッションは体積の90%が空気で、残り10%が素材。ほとんどが空洞だから軽くて、通気性も高いので背負っていても蒸れないのが特徴です。原材料が少なく済むので、環境に優しいというメリットもあります。
―山を縦走するハイカーから人気の「バルトロ」と同じ素材を使っているのは、かなり安心感があります。ほかに、日常に役立つ機能はありますか?
中島:メインコンパートメント内には、ノートPCが入るスリーブポケットが搭載されていて、オーガナイザーやメッシュポケットも完備しています。ショルダーハーネスにも小さいポケットが付いていて、ここはワイヤレスイヤホンを収納するのにぴったりですね。
―すっきりした見た目からは想像できないぐらいの収納力ですね。
中島:バッグを下ろさずに荷物を出せるようにサイド部分にポケットが備わっています。これがあると、片方の肩にバッグをかけたままでも荷物を取り出せるんです。財布とか定期入れとか、頻繁に出し入れするものを入れておくと便利ですよ。
―使い勝手の良さは申し分なさそうです。
中島:「デイパック」は現代的なアップデートを果たしているけど、基本はあえて変えてこなかった。でも、ブランドが創業して50年弱。「デイパック」が正当に進化していたらこうなっていただろうというのが、この「ルーヌ」だと思います。
―クラシカルな「デイパック」か、現代的な「ルーヌ」か。好みが分かれそうですね。
中島:背負い心地や機能性で言えば、最新の機能を備えた「ルーヌ」がおすすめですよ。いまは街中でGORE-TEXや化繊のアウトドアウエアを取り入れるファッションが主流になってきていますよね。そういうスタイルには、スタイリッシュな「ルーヌ」の方が似合いますし、若いひとたちにもファッションとして取り入れてもらえるんじゃないかと思います。
Photo_Fumihiko Ikemoto
Text_Shogo Komatsu
Edit_Soma Takeda
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