本格的に山登りをはじめてから、15年が経った。その間に使い潰したテント泊用の大型バックパックの数は、3つ。ハードな環境で使われる道具だし、万が一現場で壊れてしまった場合、なかなかシリアスな状況になる。そのくらいの周期で買い替えるのが僕としては安心だった。それら歴代のバックパックたちに具体的な不満があったわけではないのだけど、次に購入するバックパックは、常に違うブランドのものを選んできた。新しいものを試してみたいという好奇心も、そこにはもちろんあったのだけれど、いまになって振り返ってみると、大きな不満こそないものの、より良いものを求めるほどには、小さな不満があったのだろう。
2018年の7月。雑誌の企画でエベレストのベースキャンプまで行く機会が訪れたとき、GREGORYのバルトロ65を新調した。これが驚くほど自分にピタッときた。背負い心地はもちろん、考え抜かれた収納の位置や大きさ、角度。生来が整頓下手である僕でも、バルトロ65にしてからは「あれ? あいつどこいった?」なんて状況から解放された。あれこれ考えなくても、直感的に収まるべき場所に収まる。そういう感覚。
ヒマラヤ以降も、いろんな場所をバルトロで旅をした。テキサスの砂漠では一緒に砂まみれになったし、パックラフト(空気で膨らませる小型のボート)を担いでハワイ島のジャングルを歩いた時は、パドルやライフジャケットなどで、いつもの1.5倍ほどにもなった重量にも、めげずに歩くことができた。昨年の夏に1週間歩いた北ヨセミテでも、ベアキャニスター(熊対策のために食料をいれるケース)という大荷物を入れても、収納にはだいぶゆとりがあった。
次にバックパックを買い替えるのは、おそらく5年ほど後。でも、その時には再びバルトロを選ぶことを、気の早い僕はすでに決めている。
櫻井 卓(さくらい たかし)
1977年生まれ。編集プロダクション勤務を経て、フリーのライターに。『TRANSIT』『Coyote』などの旅雑誌の他、登山雑誌『PEAKS』やアウトドア誌『Be-pal』、ファッションカルチャー誌『Houyhnhnm Unplugged』など、ジャンルを飛び越え執筆中。趣味は海外のトレイルを歩くことで、アメリカを中心に多くの国立公園を巡っている。昨年の年越しはテキサスにある砂漠の国立公園ビッグベンドで迎え、夏には北ヨセミテエリアを1週間かけて歩いた。Text_Takashi Sakurai
Illustration_Yoshimi Hatori