石川弘樹さんはトレイルランニング界のパイオニアだ。20年以上も前から山を駆けるというアクティビティの魅力と可能性を広めてくれた。おそらく彼がいなかったら、日本におけるトレイルランニングは「山岳マラソン」「耐久競走」といったスタイルのままだったかもしれない。2021年現在、残念ながら怪我の影響でプレイヤーとしての活動はできていないけれど、レースの運営やトレイル整備、イベント開催など、トレイルのフィールドで起きていることを発信、普及に力を注いでいる。そんな石川さんが見据えるトレイルランニングのこれからについて。
「トレイルランニングという言葉は、山岳マラソンの歴史文化を土壌にして、15年ほど前から定着しました。それまで山を走る人たちは競技中心だったわけですが、その言葉の浸透とともに、レジャースポーツとして楽しむ人たちが増えていきます。2007,8年くらいでしょうか。ちょうど東京マラソンがはじまったことも要因のひとつ。みんな走ることや自然に触れることに興味の矛先が向いて行った時期ですね。それから地域貢献やビジネスを目的として全国各地に大会が次々と誕生して、同時にトレイルランナーの数も増えていきました」
いまでこそ、男女問わず、ひとつのスポーツカテゴリーとして広く認知されているトレイルランニング。しかし、この状況に辿り着くまでには、地道な普及活動の積み重ねがあった。
「とにかくフィールドに引っ張り出さないことには始まらないわけです。言葉だけで“山を走りましょう!”と言ったって誰も付いてこないわけですから。男性はもちろん、女性に知ってもらうことも大事で。トレラン+ランチ+ヨガみたいに、何かと何かをくっ付けて少しでも山に行くことの敷居を下げること。とにかく多くの人にトレイルランニングのことを知ってもらうためにいろんなことをやってきましたし、この活動に終わりはありません。あとはスタイルとしてのかっこ良さ。もし僕が角刈りで、ストイックに楽しいですよー! なんて言っていても、どうせ体育会系のスポーツでしょ! って説得できないでしょ?(笑)。なんか楽しそうでかっこ良さそうだしやってみようかな、その気持ちを醸成させることが大切なんです」
日本に固執することなく、海外のトレイルや様々なレースにも積極的に参加し、そこで得られた価値観やスタイル、つまり山を走ることの楽しさ、かっこ良さを逆輸入するようなかたちで伝えてきた石川さん。もちろん見た目も。ただ、トレイルランナーの増加に伴って問題も増えている、と警鐘を鳴らす。
「トレイルランニングの人口が増えることはとても喜ばしいこと。でも、そうした流れがある一方で、そこに関わる多くの人たちが“楽しみっぱなし”のような気もしているんです。例えば、サーフィンには海が不可欠で、スノーボードやスキーには山や雪が必要ですよね。トレランでいえば、山とそこにあるトレイルがあってこそアクティビティが成立するわけです。つまり、トレイルはハイカーや登山者も利用していて、走って遊んだり、レースをしたりする場所として他の利用者とトレイルを共有しなければなりません。そしてそのトレイルは日頃、誰かが整備してくれているってこと。ちょっと言い方がきつくなってしまうかもしれませんが、大勢の参加者を集めるレースは悪天候になるとトレイルを傷めてしまうことがあるのですが、そうなってもレース後に整備すればいいという風潮があるというか、そういう感覚が当たり前になっているような気がしているんです」
現在、国内レースの数は400を超える。イベントやレースを日本全国でプロデュースしている石川さん。プレイヤーサイドと運営サイド、双方の立場にいるからこそ見える景色もあるのだ。
「大会はまず、トレイルへのダメージを最小限に抑える大会運営をしていかなければなりません。コースレイアウトから大会の規模、雨天時の開催基準など、大会を安全に行うと共にトレイルの保全にも配慮する必要があります。僕らは自然を楽しむためにトレイルを利用させてもらっているわけですから、より快適に、健全に楽しむために、環境保全や自然と向き合うことが特に重要だということを伝えていけたらと思っています。それがトレイルランナーとして、大会主催者としての僕自身の役割だと思っているので」
アスリートであると同時に、レースの主催者としてもその手腕をふるう石川さん。最後に今回使ったバッグ「COVERT MISSION DAY」について聞くと、レースのときに背負うザックと同様、普段使うバッグの中身にもこだわりがあった。
「荷物は少ない方ではないかもしれないです。ノートPC、ペン、シェル、ポーチ(PCのアダプタ周り、充電器など)、ノート、スケッチブック、トレイル関連の資料、水筒、本、名刺、常備薬など。基本装備はこんな感じです。割と細々したものをたくさん入れるのと、それぞれ使う頻度が高いので、収納スペースがたくさんありながら、全体的に容量があることが、普段使うバッグに求める条件です。COVERT MISSION DAYは、ビジネスバッグっぽくない見た目が気に入っています。脱着できるマルチケースは、アダプタや充電器、ハードディスク周りを入れるのに使いました。他にもノートパソコンを入れるスリーブがあったり、内にも外にもポケットが付いていて使い勝手は十分。持ち物はできるだけコンパクトにしたいというか、トレイルのザックと同じで、自分が使いやすいようあらかじめ入れる場所を決めて使っています。いま思うと完全に職業病ですね(笑)」
バッグ:GREGORY「COVERT MISSION DAY」(ONLINE STORE)
Photo_Masaru Furuya
Edit & Text_Jun Nakada
問い合わせ先 グレゴリー/サムソナイト・ジャパン
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