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まだ見ぬ景色を求めて。

ヒマラヤ、4,400メートルの名もなき峠で途方に暮れている。マカルー地域からエベレストエリアへ抜けようとしている旅の最中。村を出発してから5日、歩き始めてからは2週間が経った。予定よりもだいぶ遅れている。原因は悪天候、雪が降って毎日ガスの中、地形が見えず進めない。ネパールを東西に横断する1,700キロのトレイル、生活道といえども国境沿いでは誰ひとりと会わず、地図もあてにならないことも多い。これまでの5年間はほぼ毎日晴天、このようなことはほとんどなかった。

バックパックには、村で分けてもらったお米や野菜などの一週間分の食材、テント、寝袋、防寒着、アイゼンなど、1ヵ月の旅に耐えられるよう、必要最小限で最大限の能力を発揮してくれる、あらゆるものが詰まっている。

そんな生きるのに必要なものすべてを守ってくれているのが、バルトロ75だ。停滞しているテントの中、食料も残りわずか、食事は一食だけにする。雨蓋からとっておきのコーヒーを取り出し、雪を溶かしながらお湯を沸かす。ヤカンから湧き出る湯気とコー ヒーの匂い。仲間たちと深呼吸をしながら、朝が晴れるのを祈った。夜を越えて、テントの外が明るくなってきた。僕の知っている、ヒマラヤの朝だった。遠くにはカンチェンジュンガ、 歩いてきた東の空が綺麗に見えた。外は酸素も薄く氷点下、 ギアを使い慣れたいつもの場所へひとつひとつ収納する。バルトロは決して軽くはないが頑丈で、ポケットも多様、間口も広いため、シビアな環境でも助かる。これから向かう西への道も足跡はない。

気を引き締め直し、慎重に標高を下げる。日没の少し前、小さな村が見えてきた。人の気配。とりあえずはまた戻ってこれたのだ。その頃にはバックパックは自分自身の一部となり、背負っていることすらも忘れていた。タフな旅でも街でも、信頼のおける道具は人生を支えてくれる。

今年はどこへ行こうか。まだ見ぬ景色を求めて、カメラとともに、相棒との旅はまだまだ続く。

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飯坂 大(いいざか だい)

フォトグラファー。東京に生まれる。国内外を多く旅し、そこに生きる人々や自然に寄り添う暮らしを撮影。山に魅せられ、NZやアメリカなど、世界各地のトレイルを歩く。旅とアウトドア、ライフスタイル誌を中心にさまざまなメディアで活動している。ネパールを横断するグレートヒマラヤトレイルを踏査する日本初の試み「GHT Project」を進行中。

Text_Dai Iizaka
Illustration_Yoshimi Hatori

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