Street Classics Of New Balance
3つの証言から紐解く。 ニューバランス「MT580」が ストリートクラシックたる理由。

- FEATURE

ボストンの街や人とともに語られ、米国のクリエイティビティの一端を象徴する〈ニューバランス〉にあって、「MT580」はことさら特異な存在だ。かつて日本、アジアで企画されたこのモデルは、ここ日本で生まれた火種をやがて本国アメリカへと飛び火させ、逆輸入のような形で銘品として受け入れられた。月日は流れてその存在感がにわかに強まっている今、海の向こうにいる彼らはこの稀有な品番とどう向き合っているのだろうか? ボストン本社で辣腕を振るうふたりからぼくらに届いた、いくつかのメッセージ。

  • Text_Rui Konno

(写真左)ポール・カセムスーク/ニューバランス シニアプロダクトマネージャー
オレゴン州ポートランド出身。ニューバランスの数々の人気作を手掛けてきたヒットメーカー。自身もスニーカーフリークで、10代前半で手にした900番台の1足がマイ・ファースト・ニューバランス。現在の趣味はバスケという、根っからのスポーツマン。

(写真右)ショーン・スカダー/ニューバランス リード・フットウェア・デザイナー
マサチューセッツ州ボストン生まれ。18年以上にわたってアパレルを中心に様々なブランドでデザインに携わり、その約半分の期間でフットウェアを手掛けてきた。現在は奥さんと愛犬のゴールデンレトリーバー、ルイとともにボストン郊外で暮らしている。

「MT580」は、最も影響力のあるモデルのひとつ。

今回は「MT580」についての話なんだけど、まずはお二人が普段〈ニューバランス〉の中でどんな仕事をしているのか、教えてもらえますか?

ショーンぼくはライフスタイル・エナジーのリード・フットウェア・デザイナーとして、さまざまな分野で幅広いプロジェクトに携わっています。具体例をあげるならエメ・レオン・ドレの“550”と“650”や、メイド・イン・USAコレクション、〈ジョウンド〉に〈ジョー・フレッシュグッズ〉、〈リーバイス〉のようなパートナーとの仕事などですね。たくさんの素晴らしい製品や人たちと一緒に仕事をすることができています。

ポールぼくの今の役職は、「グローバルライフスタイルフットウェアの戦略的ビジネスユニットマネージャー」になります。簡単に言うと、ライフスタイルフットウェアの製作プロセスを、企画から実際の消費者にまで繋げていくという仕事ですね。

MT580 OG ¥18,700

今の自己紹介だけでも、お二人が大事な部分を担っているのがよくわかりました(笑)。ふたりは元々「MT580」を履いてましたか?

ショーンぼくはこのモデルの大ファンなのですが、オリジナルの「MT580」は一足も持っていなかったんです。でも、今回の復刻は履いていますよ。すごく快適で見た目もイイ。〈ニューバランス〉の熱狂的なファンにも気に入ってもらえるはずです(笑)。

ポール同じく、ぼくも当時は入手困難で、「MT580」のオリジナルペアは手に入れられなかったですね。だけどシルエットに歴史、テクノロジーなど、ずっとこのモデルの象徴的な部分のファンでした。

様々な用途やデザインが存在するNBのシューズの中で、「MT580」の個性とはどんなところだと思いますか?

ポール「MT580」は、スニーカーの歴史の中で最も影響力のあるモデルのひとつだと思っています。トレイルから着想を得てロールバーを搭載し、当初は地域限定で発売された「MT580」は、トレンドの発信地である原宿のストリートで注目を集めるようになりましたよね。また、〈ニューバランス〉では初のコラボレーションモデルのキャンバスとなったことで、さらにその存在は伝説的なものとなっていきました。そうした過去の流れを汲みつつ、その「MT580」が、新たに今回復刻されたということなんです。つま先を細くし、履き口の高さをちょっと低くすることでモダンにしつつ、オリジナルの素材やコンパウンド、機能は限りなく再現しています。

過去を受け継ぎながらアップデートできるように、わずか な調整の可能性も模索した。

今回、「MT580」をリローンチされるにあたって、ポジティブなサプライズや苦労した部分があれば教えてくれますか?

ショーンプロダクトを復刻する時ってミリ単位まで細部にこだわるから、デザイナーとモデルとの間にすごく親密な関係が生まれるんです。今回の復刻を通して「MT580」への感謝
の気持ちみたいなものがより一層強くなりました。最大の難関は、つま先を細くするためにラストを変更しながらも、各所をミリ単位でオリジナルと同じ寸法にすること。最終的にはチームワークの良さが、この靴を完成させてくれたと思っています。

現代の世の中で「MT580」が新鮮に映るとしたら、どんな部分が理由だと?

ショーン「MT580」はいつの時代も新鮮さを感じさせてくれますが、あえて言うなら現代でファッショナブルに見せるために最適なモデルだったということですね。オリジナルの「MT580」はトレイルランニングシューズをコアとしているので、特に前側が大きめな印象になっているんです。それでぼくらはつま先を少しスリムにして、モダンで普遍的なルックスとフィーリングを持たせたかった。パターンを少し改良して、それに合わせてソールも調整することで、オリジナルにかなり忠実でありながら、ぼくらが望んだ外観のバランスにもなって、最終的にこのシューズの時代間のギャップを埋めることに成功したと思っています。

個人的なベスト「MT580」はどんなカラーウェイ?

ショーンコラボレーションからインラインまで、「MT580」にはいいカラーリングがたくさんあるので一概には言えないのですが、ぼくはオリジナルのグレーとネイビーが一番好きかも知れないですね。デザインやファッションを前面に押し出すことも好きだけど、どんなときも、何にでも合わせられるような、時代を超えたクラシックなスタイルにやっぱり惹かれるんです。

現代のスニーカーファンたちに「MT580」をどんな風に楽しんでもらいたいと思ってますか?

ショーン新しい「MT580」が、本当にニューバランスを好きな人たちに受け入れられて愛されるだけじゃなく、新しい層にも注目してもらえて、〈ニューバランス〉っていうブランドへの入り口となって欲しいと思っています。「MT580」のような伝説的なシューズをアーカイブから取り出すとき、ぼくらはオリジナルにできるだけ忠実でなければならないという大きな責任をいつも感じていますが、今回は過去を受け継ぎながらアップデートできるように、わずかな調整の可能性でも徹底的に模索しました。そのための調整だとか、細部へのこだわりが相まって、いろんな人々に受け入れてもらえる、美しくて快適な靴に仕上がったと自負しています。

最後に、加熱の一途を辿りつつ、飽和状態にもあるキックスシーンに対して、メッセージをお願いします。

ポールまだまだぼくらは、たくさんの素晴らしいモノを用意してるから期待していて欲しいです。〈ニューバランス〉のアーカイブを大事に、そこに敬意を表しつつ、新しい世代に驚きと興奮を与え続けていくつもりで、これからもプロジェクトに取り組んでいくつもりです。

「580」誕生の元となった「M585」のオリジナルからインスパイアされたネイビーのほか、過去人気を博したアーカイブモデルから着想を得たブラウン、カーキがリリース。発売は12月10日(土)。(左)MT580 AB2 ¥18,700、(右)MT580 AC2 ¥18,700