- FEATURE
流行に左右されず、いつの時代もエバーグリーンな輝きを放つ〈ニューバランス〉の「574」。この度、5つのショップよりそのエクスクルーシブモデルがリリースとなりました。今回はそれを記念して前後編に渡り、各ショップの要人に「574」にまつわるあんな話やこんな話を聞いてきました。後編は「ミタスニーカーズ」の国井栄之さん、「アトモス」の小島奉文さん、「ビリーズ」の佐藤敬太さんにお集まりいただき、プロダクトの魅力について余すことなく語ってもらいました。
小島奉文
2000年にテクストトレーディング入社し、ショップスタッフを経て、現在は「アトモス」のディレクターとして同ショップの運営統括やバイイングを手掛けている。
国井栄之
1996年より東京・上野のスニーカーショップ『ミタスニーカーズ』で勤務し、現在はクリエイティブディレクターとして敏腕を振るう。多様なメーカーやブランドと別注やコラボレーションを手がけ、世界中のスニーカーフリークから注目を集める。
佐藤敬太
「Tokyoから世界へ、洗練された本質だけを発信し続ける」をコンセプトに掲げるスニーカーショップ「Billy’s ENT」のプレスを務めるほか、ショップの限定モデルに関する商品企画にも携わるなど、お店の大黒柱として幅広く活躍。
はじめに、それぞれのショップにおいて〈ニューバランス〉というブランドが、どういった印象を持っているか教えてください。
国井〈ニューバランス〉はひと言でいうとインテリジェンスなブランドですよね。インテリジェンスな人がチョイスする一方で、インテリジェンスに見せたい人もチョイスする印象です。
あとは他のブランドと比較すると、ニュートラルなイメージもあって。さまざまなカルチャーとクロスオーバーしているんですが、どんなときでもヘリテージやアイデンティティを大切にしているんですよ。どんなブランドとコラボして、どんなに奇をてらったことをしても、きちんと戻るべき場所に戻るというか。「このモデルはこういう人が履いている」というような固定概念がいい意味で生まれず、唯一ニュートラルな位置を保ち続けているブランドだと思います。
「ビリーズ」ではいかがでしょうか?
佐藤うちの店はターゲットの年齢層が30~40代と比較的高めなんですが、〈ニューバランス〉はそうした方々に向けてなくてはならないブランドですね。ファッションに取り入れやすいアイテムとして販売しています。
「アトモス」ではどうですか?
小島すごく普遍的なブランドでぼくら世代は当たり前のように馴染みがあると思うんですけど、最近は新しいモデルも登場したりして若いお客さんにも支持されています。むかしといまを比べても、いい意味で変わらないというか。老若男女に愛されるブランドですよね。
国井だけど、履く人によってカッコよくも見えるし、ちょっとイナタくも見えてしまったりもして。単体として個性が強いモデルもあるけど、一方ではスタイリングになじむモデルもある。本当に履く人によってイメージが変わるというか、ある意味でその幅もニュートラルということだと思うんですけど。
〈ニューバランス〉はいま“おしゃれな靴”としての認知を高めています。それはどうしてだと思いますか?
佐藤ここ最近はオーバーサイズのシルエットが流行って、服のサイズ感が大きめになってきましたよね。そこに負けないボリュームのあるシューズとして、〈ニューバランス〉のアイテムがちょうどいいのかなと思いますね。それでいて主張もなくて、コーディネートにすんなりと馴染むじゃないですか。
なるほど。
国井ファッション的に〈ニューバランス〉が重宝されるタイミングって、テクノロジー全般のムーブメントのあと、その反動で流れが来るんですよ。ぼくが「ミタスニーカーズ」に入った頃ってハイテクスニーカーバブルが起こっていて、それが崩れた反動で〈ニューバランス〉の“Made in U.K.”のアイテムを仕入れたりして。
2000年代に入ってコラボレーションが盛んになりはじめた頃は、「580」を〈ヘクティク〉と一緒にやらせてもらったりもしました。「574」も、もともとは「576」という圧倒的な存在を放ったアイテムの後継モデルとして登場したんですけど、「576」が当時はアメリカ製だったのに対して「574」はアジア製で、それを日本で展開するのがいいのか悪いのか議論が巻き起こったりもしたんですよね。でも、ぼくたちは「『574』には秘めたる可能性がある」ということを主張して、コラボレーションでいろんな人を招致してその旗振りをやらせてもらったこともあります。
そして現在のこのタイミングというのは、ラグジュアリーやスポーツ、ストリートといった相反する要素が一度おなじ方向を向いていましたけど、それがそれぞれの場所に帰りはじめた時期だと思うんです。そういうときにやっぱりオーセンティックなスニーカーを求める方も増えていて、〈ニューバランス〉にたどり着く人も多いと思うんですよ。
小島たしかに反動はありますよね。実際に2019年くらいまではモダンでハイブリッドなアイテムが主流でした。でもいまはコート系やヴィンテージ系など、クラシックなスタイルに回帰しているのを感じます。ぼくも20年くらいこの業界にいますけど、その周期って必ずあるんですよね。
国井あと、ぼくはいつも〈ニューバランス〉は義務教育みたいなものだと思ってます。
佐藤おぉ~! なんか名言になりそうな予感ですね。
義務教育というのはどういうことですか?
国井たとえば小学校にしても中学校にしても、毎年新入生がいるじゃないですか。〈ニューバランス〉も毎年はじめて履く人が一定数はいると思うんです。そして年を重ねるたびにいろんなモデルについてどんどん詳しくなりますよね。
一方で他のブランドと大きく異なるのが、カリキュラムとしてユーザーを置き去りにせず、新たな世代にも現在・過去・未来を通して、きちんとエデュケーション出来ている点。だからこそ、世代を超えた共通言語が生まれやすいんですよ。入学のタイミングによって入り口となるモデルは変われど、結局みんな本質的な魅力を理解することでオーセンティックなモデルを通過していくと思うんです。
そこが先ほど話されていた、「ヘリテージやアイデンティティを大切にしている」という部分に繋がるわけですね。
国井そうですね。
オリジナルを大切にしつつも、使用される素材や機能面でアップデートはされているんですよね?
国井素材は常にアップデートされていますし、履き心地の面でコンフォート性も向上されていると思います。なので、見えない部分にはきちんと手が加わっていますね。
だけどパフォーマンス向けにつくられたモデルに関しては、実際にタウンユースで使ったときに、50%ほどしかその機能を体感できないと思います。たとえばバスケットシューズをアスファルトの上で履いて、ブランドが謳うパフォーマンスを全部網羅できるかといえばそうじゃないと思うんです。
なので、こういうライフスタイルのモデルに関しては実用的な部分がアップデートされていて、街で履いてもオーバースペックにならないようなつくりになっています。イノベーションっていう言葉を聞くと最先端な機能を搭載した印象を受けますが、きちんとタウンユースで実感できる機能が備わっているし、それでいいと思うんですよ。
みなさんは今日も〈ニューバランス〉を履かれていますが、履いていて実感することや、思い出のエピソードなどはございますか?
佐藤ぼくは先輩からの刷り込みで〈ニューバランス〉ってハードルが高い印象なんですよ。「『576』から履け」って先輩に言われて、そこからスタートしているんですけど、やっぱり履きやすさは抜群でした。でも、それを履くまでに時間がかかったというか。
それはどうしてですか?
佐藤上手に履きこなす自信がなかったのと、学生でお金もなかったので。だけど、履いてみてやっぱり虜になりましたね。
小島ぼくもはじめて履いたのは遅くて、学生のときに「580」を買ったのが最初でした。当時〈ヘクティク〉で友達が働いていて、そこで購入したんです。本当は「576」のバーガンディが欲しかったんですけど、学生の自分には手が届かなかったのを覚えてますね。それで2足目に「574」のグレーを手に入れたんです。その後原宿でレゲエブームが起こって、ラスタカラーのこの「574」をチャプターで買って履いていました。いまから15年くらい前だったかな? だから今回このシューズを取り扱えるのが結構感慨深くて。そこからだいぶ遠ざかっちゃって、最近になって再び“Made in U.S.A.”のアイテムを集めるようになってきました。ここ2、3年はよく履いていて、いまは週の半分ほど〈ニューバランス〉を履いています。
ここ数年で小島さんの中で〈ニューバランス〉に対する印象に変化があったということですか?
小島そうですね。限定系のアイテムに疲れたというのもあるんですけど、やっぱり〈ニューバランス〉はトレンドに左右されない強さがあって。それで履いてみると、やっぱり履き心地がいいし自然と手が伸びてしまうんです。気張らずに履けるというのもポイントで、あまりがんばってない感じが逆にいまちょうどいいんですよ。
国井さんはいかがですか?
国井ぼくは昔から“Made in U.S.A.”と“Made in U.K.”に固執せず色んなものを試して来ました。どうしても〈ニューバランス〉というと、Madeシリーズっていう固定概念がある世代もいると思うんですけど、お店で取り扱っている側の人間として、それはある種の戦いでもあるんです。つまり、そうした固定概念を持っている人たちに、いかにアジア製の新たな魅力を知ってもらうかなんですよね。もちろん“Made in U.S.A.”と“Made in U.K.”のアイテムは魅力的なんですけど、アジア製のモデルにも良さがある。
いまでこそ「574」はブランドの定番モデルとして認知されている一足ですが、当時は「576」の後継としてできたから、それをどう浸透させていくか模索しながら扱わせてもらったのは、いまとなってはいい思い出ですね。アメリカの〈ニューバランス〉のチームも、いまでは「574」は自分たちの定番という空気にもなっているし、アジア製のモデルが“昇華”したんだなと思います。
先日公開された「セレクトショップ編」の記事でも、「アジア製はアリかナシか」という疑問を投げかけたんですが、国井さんが仰っていたように「アジア製にはアジア製の良さがある」ということでした。なので、価値が見直されているように思います。
国井そうですね。一般的に〈ニューバランス〉を見る目が変わったんだと思います。時代がようやくアリになってきたという感じですね。
佐藤うちのお店でも生産国を気にしないお客さんが増えていますよ。ルックスがよくてファッションとして成立すればそれでオーケー、という判断なのかなと思ってます。
小島うちもそうですね。もちろん“Made in U.S.A.”や“Made in U.K.”ってアドバンテージがありますけど、そのぶん値段も変わります。エントリーモデルとしてアジア製のアイテムを買っていくお客さんも多いです。それこそ「574」もそうですし、「57/40」や「327」のアジア製のモデルは人気ですね。
〈ニューバランス〉の数あるモデルの中でも「574」に関してはどんな印象をお持ちですか?
小島「ザ・ニューバランス」っていう印象ですね。むかしもいまも変わらないモデルですよね。
佐藤本当に普遍的でたくさんの人に愛されるスニーカーですよね。若い人たちも、ぼくらの年代も、ぼくらの上の世代も、幅広く受け入れられているなぁと。
国井人種やジェンダーも関係なく愛されているモデルですよね。アメリカでとにかく売れたモデルなんですけど、それは人種を跨がないとそうならない。年齢も国も人種もジェンダーも関係なく、本当に〈ニューバランス〉を一般化させた一足だと思いますね。
佐藤ちょっと話変わるんですけど、みなさんの中で、〈ニューバランス〉がいちばん似合うアイコン的な人っていますか?
国井それはちょっと難しい質問ですけど、鮮明に覚えているのはやっぱり老人と老女の70年代のキーヴィジュアルですね。あれはすごくかっこよかった。今年になって“Made in U.S.A.”のコレクションにクリエイティブディレクターが誕生して、そのヴィジュアルも発表されたじゃないですか。あれも本当に秀逸だと思いました。
〈エメ・レオン・ドレ〉というブランドのファウンダーであるテディ・サンティスさんが、ディレクターに就任されましたね。
国井あえての白黒の写真で、ジェンダーも人種も多様性に富んでいて、きちんとしたメッセージを発信していました。そこに写っている人たちはニューヨーク在住の様々な職人達で、なおかつ履いている靴もかっこよく見える。履く人が魅力的であれば、靴もおなじ見え方をするのを実感しましたね。
もともと矯正靴のメーカーだし、シグネチャーをつくらないし、そこが他のブランドとちがうところで、履く人を限定してないんですよね。それで人ありきで見え方が変わるというのが〈ニューバランス〉の魅力なのかなと思います。それだけ自由度の高い靴っていいですよね。
価格も手に取りやすいですし。
国井そう思います。それと「574」ってカラーリングのバリエーションもすごく豊富だったんですよ。〈ニューバランス〉といえば、やっぱりグレーがあって、ネイビー、バーガンディ、ブラックっていう決まったカラーパレットでリリースすることが多い中で、「574」は本当に斬新なブロッキングだったり色使いをしていて。ただ価格が手に取りやすいだけじゃなくて、素材やカラーで惹きつけた部分もあったと思います。
では、それぞれのショップで販売される「574」に関して、おすすめのポイントを教えてください。
佐藤「ビリーズ」の信者がいるとすれば、ぼくらのアイコン的な色でもあるネイビーが差し色として使われているとこですね。最近ブラックに変わる色としてネイビーも注目されているので、そういう部分でも楽しんでいただけると。デニムにも合いますし、今日ぼくが履いているような白系のパンツとの相性もいいと思います。あとはもちろんブラックも合いますし、ネイビーのスラックスと合わせて上品に履いてもいいかなと。とにかく幅広く合わせやすいと思います。
マスタードの色が渋くていいですね。
小島いい色ですよね。
佐藤ありがとうございます! ぼくもそう思います。
「ミタスニーカーズ」のアイテムはいかがでしょうか?
国井日本でまだ「574」が展開されていないときに最初に履いたのがこの色だったんです。当時アメリカで買ったんですけど日本にも少しだけ並行輸入して、その後「ニューバランス ジャパン」に掛け合って、この色をエクスクルーシブで展開させてもらった思い出のカラーリングですね。このタイミングでまたこの色をお取り扱いできるのは、個人的にもすごくうれしいです。ぼくにとっては懐かしいモデルなんですけど、いまお店に来てくれている若いお客さんにとっては新鮮に映ると思うので、そういう意味でいろんな解釈ができるアイテムなのかなと思います。
「アトモス」のアイテムはいかがですか?
小島先ほど話したように、ぼくもこのカラーリングのモデルをむかし履いていたんですよ。だから勝手に運命を感じていて(笑)。「ビリーズ」や「ミタスニーカーズ」はベーシックな色ですけど、すべてがそうである必要はないかなと。こういった色を差し色としてファッションに取り入れるのもアリなんじゃないかと思います。まだまだ足元を目立たせたい人におすすめのアイテムです。
佐藤すごく新鮮な色で、ぼくは好きです。
国井当時この色が出たときに、〈ニューバランス〉でもこういうカラーリングをやるんだって思ったんですよ。
小島当時めちゃくちゃ売れてましたよね。
国井他のスポーツブランドがこういう色のシューズを出すのは理解できるんですけど、〈ニューバランス〉もそこにいくか! という感じだったので。その前に〈ステューシー〉と〈マスターピース〉のコラボレートでもジャマイカカラーがあったりとか、日本のレゲエムーブメントともリンクしていたし時代性を感じますよね。
先ほど国井さんが仰られていたように、黒人にも受け入れられたカラーなのでしょうか?
国井そうかもしれません。こういうカラーも履いていましたし、オーセンティックな色もなんでも履いていましたね。逆に当時は真っ白や真っ黒を履いている人が少なかった印象です。
最後に、みなさんがこれから〈ニューバランス〉に期待することはありますか?
佐藤変わらないで欲しいですね。いつまでも普遍的で安心感を与えるって最高の顧客サービスだと思うんですよ。お店側としても安心してお客さんに提案できるので。そういうブランドであって欲しいです。
小島ぼくも同意見です。他のブランドが猛スピードで突っ走る中、〈ニューバランス〉は自分たちのスタンスを守りながら、でも着実に前進している印象で。うちの店でもそういう安心感のあるブランドとして提案しているので、変わらないペースでやって欲しいと思います。
国井本当にまったく一緒の意見ですね。変わらないで欲しいというか、変わる必要がないんですよね。ニュートラルを保って欲しいです。さっき話したように義務教育だと思っているので、学校のシステムみたいなものがこのブランドにはフィットしているし、毎年かならず〈ニューバランス〉に入学する生徒がいるので。年数に合わせてしっかりとエデュケーションしてもらって、最終的にそうした人たちが〈ニューバランス〉を好きであり続けてくれたらいいですよね。