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昨年春のリリース以来、多くのファッションフリークたちを虜にしている〈ニューバランス〉のパンツコレクション「WAIST TO TOE」。今年の秋冬より、日本を代表するセレクトショップ「ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)」での取り扱いもスタートし、飛ぶ鳥を落とす勢いでその人気ぶりが加熱しています。では、なぜこのアイテムは優れているのか? その秘密を探るべく、デザインを担当した〈ニューバランス〉のキム ヒョッスさんと、「ユナイテッドアローズ」のバイヤーである内山省治さんに、その魅力を語ってもらいました。「シューズが起点になっているから違和感なく穿ける」とは内山さんの言葉。たくさんのファンを獲得する納得の理由がそこにはありました。
はじめに、「WAIST TO TOE」が生まれた経緯について教えてください。
キムもともとアイデアベースで、シティファッションとスポーツファンクションを組み合わせたハイブリッドウェアをつくりたいという発想がぼくの頭の中にあったんです。それを社内でプレゼンしたところ、おもしろそうだからやってみようということになって生まれたのが「WAIST TO TOE」です。
キム〈ニューバランス〉のシューズにウイズ(足幅)のサイジングがあるように、このパンツにも幅の違う5型のシルエットを設けました。あとは我々のシューズを最も美しく見せること。そして履き心地が快適なように、機能的であること。つまりは〈ニューバランス〉のシューズのためのパンツとしてデザインを突き詰めていきました。
スポーツブランドである〈ニューバランス〉が、シティファッションに向けてこうしたプロダクトをつくった、というところがユニークですね。
キムたとえばビジネスマンの方でも、ジャケパンにグレーの〈ニューバランス〉のシューズを合わせたりとか、そうしたファッション文化が日本にはありますよね。スポーツブランドではあるんですが、シューズはカジュアルシーンでも市民権を得ていますし、じゃあその靴に合うパンツをつくろうというシンプルな発想です。ただ、ファブリックやディテールに関してはスポーツファンクションが詰まったものにしないといけないと考えていました。
内山さんはこのアイテムをご覧になられたとき、どんなことを感じましたか?
内山素直にいいなと思いましたね。じつは「ユナイテッドアローズ」としても、〈ニューバランス〉と一緒にアパレルの取り組みをやりたいと思っていたんです。それで商談へ伺ったところ、こちらのアイテムをご紹介いただいて、ぼくらが持っていたイメージに近しいものを既にやってらしたんですよ。それなら、この「WAIST TO TOE」をベースにいろいろお話をさせてもらったほうがいいんじゃないかと思ったんです。
なるほど。似たようなことを考えていらっしゃったと。
内山どうして〈ニューバランス〉と一緒にやりたかったかというと、アスリートに向けたプロ仕様のプロダクトをつくっていて、そうしたテクニックやノウハウを持っていますよね。とはいえ我々が生活の中で長い時間を過ごすのは、こうした街中だったりするわけです。そうなったときに、街でも自然でいられて、なおかつ実際にアクティブに動こうと思ったときにすぐに動けるようなアイテムがすごく欲しいと思っていました。
そうしたアイデアを思いついたときに、ブランドの背景なども考えて自然にそれを実現できるのが〈ニューバランス〉だったんです。
内山なので、最初にスラックスタイプのこのアイテムを拝見したときに、まったく違和感を感じませんでしたね。我々が自社でこういうものをつくろうとすると、すごく堅いものというか、クラシックなものができあがってしまうと思うんです。ただ、このアイテムにはスポーツ畑で培ってきた目線が盛り込まれていて、当初やりたかった街中からフィールドまでというイメージが具体化されたコレクションだなと思いました。
最近はカジュアルだけでなく、フォーマルでもこうした機能的なファブリックを使ったスーツやセットアップがリリースされていますよね。一種のトレンドのようなものがあるのでしょうか?
内山そうですね。いかにストレスフリーで過ごせるか、ということをみなさん望んでおられるんだと思います。ただ、このアイテムに関してはオフのシーンはもちろん、サイズ選びやスタイリングによってはフォーマルなシーンにも対応できる幅の広さがあって、その点では機能的な素材を使ったスーツやセットアップとは似て非なるものだと思ってます。フォーマルなものをつくっているブランドやメーカーからは絶対でてこない雰囲気のもので、唯一無二のアイテムなんですよ。そこがぼくらが取り扱いを決めたポイントでもあります。
実際にアイテムを見ながらデザインやディテールポイントに関して教えてください。
キム今回ものづくりをする上でこだわったのが、クラフトマンシップという部分なんです。〈ニューバランス〉のイギリスやアメリカの工場では職人たちが革靴をつくるようにシューズをつくっていて、そうしたものづくりのアプローチをこのプロダクトにも込めないとうちらしいものができないと思ったんです。なので、ただデザインするというよりも、パンツをテイラーのように仕立てる感覚でつくりました。
なるほど。実際に5型のシルエットをつくるとなると、大変そうですね。
キムそうですね。それぞれ近しいシルエットの差をつけるのに、ミリ単位で何度も何度も仕立てなおしました。最初に5型と決めていたんですけど、シルエットの差を出すのが大変で「4型でいいんじゃないか?」と諦めかけたときもあります(笑)。なので、そこは苦労した部分ですね。単純にシューズを最も美しく見せるための計算式を考えて、シュータンとパンツの裾の余白が何センチあるとキレイに見えるか? という細かな部分もこだわっています。
ディテールに関してこだわりはありますか?
キム生地はソロテックスを採用していて、ストレッチ性や防水・撥水性、接触冷感や防シワといった機能が標準装備されています。
キムポケットにはコンシールファスナーを使っているのでパンツのシルエットに干渉しません。なのでいろんな角度から見たときにシルエット(面)の美しさが強調されるような設計にしています。あとはシンプルにモノを落とさないというメリットもあります(笑)。
ウェストにはゴムとシューレースをあしらって、体型の変化に対応できるようにしています。なので、あえてジャストサイズとはズラして穿くこともできますね。
内山はじめて試着させてもらったときに、何パターンか穿かせてもらったんです。それぞれシルエットも異なるし、サイズによってレングスの具合も変わるんですけど、どれもしっくりきたんですよ。それはなぜなのかと考えたんですけど、〈ニューバランス〉は足元専門と言ったら語弊があるんですが、ずっとシューズをつくりつづけているんですよね。今回のコレクションもそれを起点に物事が考えられているから違和感なく穿けるのかなと思いました。
〈ニューバランス〉のシューズを最も美しく見せるというコンセプトの通りですね。
内山そうですね。トータルで見ようとすると、どうしてもちがう発想になるんですよ。たとえばジャケットがあってセットアップありきでつくろうとすると、足元は二の次になってしまって、「ジャケットの着丈がこれくらいなら腰周りはこういうシルエットがいい」というようなつくり方になってしまう。ですが、このコレクションのいちばんの魅力は、その名の通り、腰から下のバランスにすべての根幹があるところです。
「おしゃれは足元から」という言葉をまさに体現するようなパンツということですね。
内山そうですね。〈ニューバランス〉には「1300」「576」「990」といった代表的なモデルがあるじゃないですか。そうした誰もが知っているモデルがある中で、それに合う究極な服があるといいよね、という話は「ユナイテッドアローズ」の中でもずっとされてきたことなんです。
キムぼく自身も〈ニューバランス〉のシューズが好きで、仰る通り、それに合うパンツをただつくりたいっていう、ただそれだけの発想でつくったんです。
内山だから、自然とニューバランスと我々、ユナイテッドアローズのあいだで共通の認識ができていたのかなと改めていま思います。ぼくの中で〈ニューバランス〉はクラス感というか、上品なイメージがあって、パンツと靴でビシっとそれが形成されれば、トップスはそのときの気分で自由にスタイリングしてもだらしなくなったりしないですよね。
今年の秋冬よりトップス類もバリエーションが豊富になりましたね。
キム「WAIST TO TOE」をローンチした際にプレス向けの試着会をしたんです。そのときにいろんな方から「ジャケットもつくって欲しい」と要望があって。これらのアイテムに先駆けて春夏にシングルのジャケットはつくって販売していて、今期から5型のバリエーションにして展開しています。
どのアイテムにも襟があるのがポイントです。先ほど内山さんが仰ったように、〈ニューバランス〉にはトラディショナルで上品、そしてジェントルなムードがあるので、そうしたラインナップにしています。
「ユナイテッドアローズ」の別注も今回つくったんですよね。
内山インラインには襟付きのアイテムが揃っているのに対して、別注させてもらったのはこちらのクルーネックのトップスです。先ほど話したように、ぼくらが欲しかったのは街中からフィールドまでいける、そういうアイテムで、それこそ共地のジャケットを着ればフォーマルなシーンでも対応できるし、夕方に仕事が終わってそのままウォーキングして家まで帰ろうと思えばそのままできちゃうポテンシャルを秘めたコレクションだと思うんです。
一方でぼくらがさらに提案したかったのは、ジャケットを脱いだオフのシーンでのセットアップスタイルなんです。このパンツはストレッチが効いていて、撥水効果もあったりしてすごく快適ですし、それをトップスでもできたらな、ということでこのアイテムを別注させてもらいました。
そうしたアイデアがあって、それをデザインする上でキムさんはどんなところにこだわったのか教えてください。
キムいちばんのこだわりはシルエットですね。ストレッチ性のある生地を使っているとはいえプルオーバーなので、着たり脱いだりがしやすい大きさを確保しつつも、あまりにもビックシルエットを強調すると子供っぽくなってしまうので、その中で品を保てる大きさにしています。
「WAIST TO TOE」を使ってコーディネートを組むなら、どんな提案をしたいですか?
キム個人的にこのダブルのジャケットが好きで、それを合わせてフォーマルなスタイルにしました。とはいえそれだと固すぎてしまうので、キャップと990v5でスポーティな要素をミックスしています。パンツのシルエットは“ワイド”が好きなんですが、トップスが結構大きめなのであえて“ワイドテーパード”を穿いて上品さを表現しています。
内山さんはいかがでしょうか?
内山ぼくは「スキニー」のシルエットを選びました。細身なのでオンのシーンというよりも、よりファッション感を強調して穿けると思ったのと、ボリュームのあるアウターと合わせても面白いコントラストができるのでセレクトしました。シューズはユナイテッドアローズ別注の「CM1700JC」を合わせています。最近グレーのシューズが個人的に気になっていて、いわゆる〈ニューバランス〉の定番のグレーよりも更に濃いチャコールで表現しました。
どういったお客さまにこの「WAIST TO TOE」のコレクションを楽しんでもらいたいですか?
内山もちろんいろんな方に着ていただきたいですし、穿いてもらいたいです。その中でもとくにアクティブに動き回る方にはピッタリだと思います。ぼくらが日常で多くの時間を過ごしているのはビジネスシーンですよね。コロナの影響でさまざまなビジネスの様式が生まれてきているじゃないですか。そうした変化の中で、服の着方というのも多様化していて。
内山このコレクションは、仕事するときはもちろん、終わった後も着られますし、週末にも対応します。自転車通勤だとか、ウォーキングしているという方もそうですし、ジムの行き帰りもこれだとラクですよね。運動してシャワー浴びた後にデニムとか穿くと、すごく重たく感じるじゃないですか。だから本当にいろんなシーンに使える。シーンレスで、シーズンレスなアイテムだと思うんです。なので、本当にたくさんの人に手にとって欲しいというのが素直な気持ちです。
キムこうして日本を代表するセレクトショップでの取り扱いが決まってすごくうれしいですね。ぼく自身すごく光栄です。
最後に、今後「WAIST TO TOE」で考えている展望やビジョンはありますか?
キム〈ニューバランス〉の「990」には1000点中の990点ていうコンセプトがあるように、時代に合わせてアップデートしていく必要があると思うんです。じつは「WAIST TO TOE」も、パンツだけシーズンごとにシルエットの微調整をおこなっています。そうした甲斐もあってなのか、トレンドというものを意識してはいるんですが、それを抜きにしてもきちんと形になってきた実感があるんです。
ただ、さらにもう一歩、服としての完成度を高めたいと思っています。裏地をつけたりとか、よりテーラー服に寄せたファンクションウェアをつくってみたいというのは考えています。とはいえ、まだまだアイデアベースではあるので、実現するかどうかはわかりませんが(笑)。でも、これで完成だとは思っていないので、どんどんいいものをつくっていきたいという気持ちは変わりませんね。