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1996年に〈ニューバランス〉から発売されたランニングモデル「M850」。日本では展開されなかったという背景も手伝い、一部のマニアなファンから支持され続けてきた隠れた名作です。そんな幻のモデル「M850」のアッパーを踏襲しながらもトレイルのソールとマッシュアップし、装いを新たに登場したのが「MS850T」です。「New Balance All Terrain」と銘打たれたアウトドアコレクションで、オフロードからストリートまであらゆるシーンに対応するニューモデルは、どんな機能を備えているのか。今回は、90年代カルチャーに精通する吉祥寺のショップ「ジ・アパートメント」オーナーの大橋さんに話を伺いながら、トレイルスタイルシューズとして生まれ変わった「MS850T」を徹底解剖します。
大橋高歩/「ジ・アパートメント」オーナー
2009年、ニューヨークのストリートで育まれたカルチャーと密接にリンクするファッションを提案するショップ「ジ・アパートメント」を東京・吉祥寺にオープン。ヒップホップやバスケットボールなど、90年代カルチャーに精通。800番台をはじめとするニューバランスにも造詣が深く、コラボレイトモデルなども手掛ける。
1993年以降毎年各ブランドがリリースしたハイテクスニーカーを契機に、90年半ば空前のハイテクスニーカーブームが巻き起こります。その真っ只中、96年に〈ニューバランス〉からリリースされたのが「M850」です。日本未展開だったこともあり、知る人ぞ知るモデルだったと言えるでしょう。
Nロゴを排したこのユニークなデザインのスニーカーが、今の“ダッドスニーカー”というファッション界の潮流と相性がいいのはご覧の通りでしょう。このモデルの復刻版が11月29日に発売されます。
ちなみに少しややこしいのですが、91年に発売されたライトウェイトランニングコレクション「M850」とは別モデルです。当時の資料を見ると、96年はランナーの細かなニーズに対応すべく、ランニングシリーズが一新されたタイミングのようで、軽さをも求めるランナーに“LIGHT WEIGHT”、安定性を求めるランナーに“STABILITY”、クッション性を求めるランナーに“CUSHIONING”と細分化。96年にリリースされた「M850」は“STABILITY”モデルとしてカテゴライズされています。
ハイテクブームに登場した「M850」は、その機能性を大きくアップデートさせたのはもちろんですが、ファンの心を魅了したひとつに〈ニューバランス〉の代名詞でもあるサイドの“N”ロゴを排したという革新的なデザインがあります。
そんな「M850」と、そこから発展した「MS850T」の魅力を東京・吉祥寺のセレクトショップ「ジ・アパートメント」のオーナーである大橋高歩さんに伺いました。90年代カルチャーを体感し、自身もコアなスニーカーフリーク。プロデュースする「ジ・アパートメント」では「MS850TRA」を先行発売するなど、〈ニューバランス〉サイドからも認められた一人です。
「正直、96年当時は日本未発売だったので『M850』を知りませんでした。その2年後の98年に、10月にオリジナルカラーで復刻リリースされた『M801』というトレイルランニングシューズがリリースされたのですが、僕はこのモデルが大好きで800番台にハマり、『M850』の存在も知るようになりました。『M850』も『M801』も、当時はファッション的なスニーカーではなかったので、街でもお洒落な人が履くのではなく、白人のおじさんがリアルに山やジムで履くような感じでしたね。ただ僕はメインカルチャーよりもサブカルチャーが好きだったこともあり、人気モデルよりあまり陽の目を見ない『M850』や『M801』に注目していたんです。同じ800番台なのに、前々関係のない品番という点も興味深かった。もともと90年前半はライトウェイトランニングカテゴリーとしてリリースされていた800番台が一度仕切り直されて、96年にNマークロゴがサイドに入っていない『M850』が登場するんですが、この頃は〈ナイキ〉の「エアマックス」や〈プーマ〉の「セルヴェノム」などのロゴも小さかったり、ロゴそのものを無くすのが流行っていた時期でした。そんな時代背景を物語るデザインがいいですよね」
そして今回、「M850」のオリジナル復刻以外にも、「New Balance All Terrain」というアウトドアコレクション内ではトレイル版となった「MS850T」がリリースされます。こちらはランニングモデル「M850」のシルエットやディテールをヒントに、頑丈でありながらもスタイリッシュに仕上げたトレイルシューズです。
ミッドソールには快適さを追求した“Fresh Foam X”、アウトソールにはグリップ性と耐久性を実現した“Vibram”が採用されています。そんな機能を備えつつ、一方でどんなところにファッション性があるか、大橋さんの着こなしをサンプルに聞いてみました。
「言ってしまえば『MS850T』は新しいモデルなんですが、フォルムや色使いなど、しっかりと90年代の雰囲気を継承しています。なので、ファッションでの取り入れ方を『ジ・アパートメント』でも90年代のデッドストックや復刻されたウエアとのコーディネイトを提案したいですね。今、90年代という要素はファッションでも欠かすことのできないピースだと思いますし。ただ忘れてはいけないのは、『MS850T』はあくまでトレイルランニングシューズであるということです。実際に山でも履いてみましたが、機能性は申し分ありませんでした。これだけの高いクオリティでありながらも、リーズナブルな価格帯というのは、かつて本国アメリカで大ヒットした実績があるからでしょう。90年代、僕がスニーカーを楽しんだように、街でもお洒落に履けて山でも遊べる。さすが名作ですね」
MS850T
カラー:RF(YELLOW/BLACK)、RA(RED/BLACK)、RD(BLUE/BLACK)
価格:¥12,800+TAX
RFとRDは11/16 「ジ・アパートメント」で先行発売。ニューバランス直営店は全て11月29日発売。