伊藤弘（いとう ひろし）
グラフィックやムービー制作を中心に、アート、出版、プロダクト、インテリア、ファッション、ウェブなど、多様なメディアで活動しているデザイン集団「groovisions」の代表。現在、東京・表参道、GYRE 3F / EYE OF GYREにて、作品集、書籍、iPhoneアプリの同時リリースを記念した展覧会「groovisions firstlight」を開催中。2015年8月23日まで。
http://groovisions.com

— トレッキングをはじめたのはいつ頃ですか？

小さい頃のボーイスカウトが最初だったかな。でも僕が入っていた団がものすごいスパルタで嫌になっちゃって。それから大人になるまではずっとやってなかったですね。ただ、山で使うギアは機能性に特化してるモノが多くて、それ自体が面白いから、ずっとチェックしてたし集めてましたね、登らないのに（笑）。それが今世紀に入ってから、あらためて使い始めたんです。そしたら昔の記憶と全然違って、あまりの高性能ぶりに驚いたのと同時に、やっぱり面白いなって。

— どういう基準でギアを選ぶんですか？

特に基準はないです。日本に四季があるように、環境が変われば使うギアも変わってくるので、何かひとつの機能に特化して選ぶことはしないですね。強いて言うなら重量の軽いアイテムを好んで選んでます。ただ、軽くなることは強度や耐久性とトレードオフになるので、そのバランスが重要ですね。決められた環境下で、どういうバランスで機能を設定するかに作り手の考えが出る。そこに注目するのが面白いんです。

— 逆にヘビーなギアはどうですか？

ヘビーなアイテムもミルスペックとか軍隊的なディテールの魅力はありますが、ウルトラライトの方が思想的に面白いんですよ。足し算ではなく引き算なので、道具や自分の力量、目的地の状況、そのすべての「関係性」を考えながら道具を取捨選択していくこと。それを考えるのが楽しい。

— 作り手目線で選ぶギアっていいですね。そういう意味で、今回使用したグレゴリーの「ベルテ25」はどうですか？

汎用性が高いですね。ストレスを感じることなく使えたので、とても計算された優れたバッグパックだと思います。必要最低限のスペックにまとめつつ、それぞれが上手く配置されていて。しっかりしたものを作るというグレゴリーの思想を感じます。かつてはバックパック界のロールス・ロイスと言われたほど、そこに二言はないというか、耐久性と信頼性、この2つにおいては他を寄せ付けないんじゃないかなってあらためて思いました。

— グレゴリーの思い出はありますか？

90年代、僕は山に登ることに対しては関心がなかったんですが、みんなグレゴリーを使ってました。今はかなり数のブランドがあって飽和状態になっていますけど、当時はバックパックで一番人気があったと思います。そういうところからくる信頼感ってすごく大きい思いますね。僕の場合は一番使っているのが旅行用のトローリーです。もうかれこれ10年以上経ちますが、本当によくできたプロダクトだと思います。単純にタイヤが大きくて、街中だけじゃなくて荒れ地でも使えて、なおかつ全然壊れない。僕の中での名作ですね。

— 伊藤さんが山に行く理由って何ですか？

単純に面白いからやっているだけで、音楽を聴いたり、映画を観たりするのが面白いのと一緒。別に深い理由はないんです。ただ、ことの発端としては、ネット普及以降、カルチャーと自然のアクティビティがリンクしだしたというか。山登りの考え方やそこにいる人も変化して、それが面白いなって思うようになりました。

— どういう時に登りたくなるんでしょうか？

1週間後とか1ヶ月後とか、計画的ではないです。むしろ明日とか、時間が空いたから登ろう、天気も良いしとか。そうなると一人の方がラクだし、機動力が圧倒的に高い。自分で全部判断できるっていうのがいいですよね。ちなみに身近なところでいうと高尾山。紅葉の時期とかは人が多くて嫌ですけど、冬は雪が結構積もるんですよ。なので東京の街で雪が降ると、雪山装備で高尾山に行くんです。人も少なくて静かで初心者の方にもオススメです。

— 登っている最中は何を考えているんですか？

どこに足を着こうとか、そのときのことで精一杯ですね。逆に余計なことを考えなくていいというか、どちらかというと無心に近いかな。自転車に乗ってるときの方が色々と考えます。いちおう事前段階から、ストイックにあの山の頂上を攻略しようとか目標は作るけど、あってないようなもの。今回は後半雨が降ってきましたけど、それが逆に良かった。地面や周囲のシチュエーションが変わるし、そうなったときの歩き方とか、リアルタイムでプロセスを考えるのが楽しいですね。

— 登ってからいつもすることは何ですか？

山は天候が崩れることが多いので、だいたい夕方前に着いて、早めに着いてテント張っておくことが多いですね。早ければ2,3時ぐらい。それから天候次第で散歩したりメシ作ったり、たまにスマホで本を読んだり。早ければ7時ぐらいに寝ることもあります。結構暇なんです（笑）

— 今後トライしてみたい山はありますか？

とくにないんですけど、よく行く長野の八ケ岳周辺とか、北アルプス周辺とかを定期的に歩いておきたいですね。稜線をつたっていくハイキングルートって、色んな人に聞くんですが日本以外あまりないみたいで。それから、頻繁に登るわけではないので、同じルートでもいい時期、いい環境で、良かったなって思えるトレッキング体験を増やしたいですね。雲ひとつない風ひとつ吹かない雪山とか、ちゃんといいとき（天候と時期）にいい歩きができるといいですね。

今回使用したバックパック「VERTE25」
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