COLUMN

vol.1

アディダスのお膝元、ドイツのレトロランニング事情。

榎本一生 SHOES MASTER編集長

日本とドイツ。マーケットの違いは当然のごとく存在する。
それでは何故、ドイツではレトロランニングシューズが熱狂的なまでに支持されるのか。
「Sneaker Tokyo vol.4 addicted to "adidas"」の取材で幾度も現地を訪れた
スニーカー専門誌「SHOES MASTER」の編集長・榎本一生が綴る、
ドイツとアディダスとレトロランニング、その実情。

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なぜ、ドイツでは「レトロランニング」が支持されるのか。

アディダスはこれまで数多くの名作を読み生み出してきたけれど、本国ドイツと日本では、人気シューズの傾向は大きく異なる。日本でアディダスと言えば多くの人がSS、CP、スタンスミスといった、いわゆる「コート系」を思い浮かべると思う。

しかしアディダスのお膝元のドイツでは、主流は圧倒的にランニングシューズ。特にZXシリーズ、エキップメント、LAトレーナーをはじめとする1980〜90年代の「レトロランニング」に人気が集中している。これは、一冊まるごとアディダスの本を作り、取材のために何度もアディダスのドイツ本社を訪れた経験のある僕の実感だ。

特にそう強く感じたのは、ドイツの首都ベルリンで熱狂的なアディダスマニアたちを取材したときのこと。ベルリンの中心部で看板業を営みながら、アディダス愛が高じて自らのオフィスにシューズコレクション専用の棚を設けてしまったクオータ氏は、所有する200足ほどのアディダスコレクションのうち8割以上をレトロランニングが占める。それらが壁一面にずらりと並ぶ様子はまさに圧巻。

幼少期を統一前の東ドイツで過ごした彼にとって、西側のブランドであるアディダスは憧れの存在であり、特に1980〜90年代に誕生したランニングシューズはスペシャルな存在として彼を魅了してやまないようだ(余談だが、クオータ氏の熱狂的なアディダス愛は本社スタッフの耳にも届き、オフィシャルなコラボレーションへと発展、2012年春にはアディダスの限定プロジェクトであるコンソーシアムから自身が提案するZX 500のスペシャルカラーがリリースされるに至った)。

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「Sneaker Tokyo vol.4 addicted to "adidas"」に掲載されたクオータ氏のコレクション。


日本では過小評価されてきた「レトロランニング」の今後。

ベルリン郊外に暮らすマーク・ロイシュナー氏も、アディダス オリジナルスのレトロランニングを愛するコレクターのひとり。12歳のときに初めて買ったZX 8000の復刻版をきっかけにしてスニーカーに目覚め、以来アディダス オリジナルスのランニングシューズを中心にスニーカーのコレクションを始める。現在350足ほど所有しているうちの大半がアディダス オリジナルスで、そのほぼすべてがレトロランニングだ。

いわく、「特に好きなのがZXシリーズ。色使いや素材使いが抜群で、アディダス オリジナルスの良さがもっとも出たシューズだと思うんだ」。ZXシリーズのほかにも、アディダス オリジナルスのハイエンドモデルとして1990年代前半に登場したエキップメントシリーズもこよなく愛し、自室の棚にはそれらの歴代のオリジナルや限定モデルなどが美しくディスプレイされていた。

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同じくマーク・ロイシュナー氏のコレクション。


日本にもアディダスマニアは少なからずいるものの、彼らほどレトロランニングに熱を上げている人を僕は知らない。またドイツでは街中でもZXシリーズやLAトレーナーなどを履いているお洒落ピープルを数多く見かけ、レトロランニングが広く支持されていることを改めて感じた。

一方の日本では、前述したようにSSをはじめとするコート系の存在感があまりにも強すぎるせいか、これまでレトロランニングの魅力が過小評価されてきた気がする。最近アディダス オリジナルスから続々と復刻されているレトロランニングは魅力的なモデルが多く、今の時流にもピタリとハマる。ドイツの事情や蘊蓄はさておき、もっと注目されてもいいはずだ。

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『Sneaker Tokyo vol.4 addicted to "adidas"』

編・著:SHOES MASTER編集部
発行:マリン企画
バイリンガル編集(日本語/英語)
定価:¥933+税

Photo_Masaki Sato


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榎本一生
1976年生まれ。フリーランスのエディター、ライター。シューズとスニーカーの専門誌『SHOES MASTER』の編集長も務める。

www.shoesmaster.jp